娘の4歳の誕生日を間近に、思い出したことがある。
あれは、4年前。
子供を産んで、8日間の入院生活を終え、実家に帰ってきた翌日。
父と母は仕事に行き、私は実家ではじめて赤子と2人きりになった。
ゆうぐれの、ちょっと手前。北海道の一瞬の暑い夏。エアコンのない実家でも、風がここちよい。
赤子は寝ていて、私は「今のうちに急いでシャワー浴びちゃおう!」と、思いついた。
赤子が泣いたらすぐにわかるように、浴室のドアはあけっぱなしにして。
久しぶりの実家のシャワー。心地よくシャワーを浴びていると、カラスの鳴き声がした。カー!カー!カー!
あ、カラス。
え、カラス?
赤子の寝ている部屋の窓は大きく開き、網戸をしただけだ。
「カラスに赤子がさらわれる!」
私は恐怖に支配され、泡がついた素っ裸のまま、走って赤子のもとに戻った。
そして、網戸を勢いよく開け、「カラス!あっちに行け!」と発狂じみた声で叫んだ。
家の外の塀にいたカラスは、私を見てあきらかにひいていた。「ちょ、こいつ頭大丈夫?」という顔をして、カーカーと飛んで行った。
ありえないのよ。漫画でもあるまいし。
カラスに赤子がさらわれるなんてこと。
なのに私は本気で思った。カラスに赤子がさらわれる、と。
お隣さんに自分の裸を見られたらどうしよう、とか、バスタオルを1枚はおる、とか、そんなことさえ頭になかった。
私にとって、赤子のいる生活は、それほど漫画じみたことだった。
いままで自分が生きてきた世界から、それほどかけはなれた世界に、きてしまったのだ。
私は、カラスに発狂して大声をだしてしまうようなメンヘラで、これからが不安、赤子の横で、おいおいと泣いた。
しばらくして、よろよろと再度シャワーを浴びあわあわを流したところで、母親が仕事から帰ってきた。
「おつかれ!車貸すから、ドライブでもしてきたら?」と。
一気にテンションがあがり、私は母親の車を借り、一人でお気に入りの曲をかけながら、海辺をドライブした。
リフレッシュして、家に帰ると、父親も帰って来ていて、「すきやきだよー。」と赤子を抱きながら言った。
そうか、1人じゃないんだ。
とっくの昔に、追い越したと思っていた母親と父親を、こんなにも頼もしく感じる日が来るなんて。
気楽になると、急にお腹が空いた。
娘がこの世に降りて、8日目の、私の気持ち。
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